あなたのまちにも「原っぱ大学」を!親子の遊びと暮らしを、もっと自由に。乾善彦さんが「原っぱ大学 柏かわせみキャンパス」立ち上げに込めた想い

みなさんは、こんな光景を目にしたことはありませんか?

まちで楽しそうにはしゃぐ子どもに、「静かにしなさい!」と注意する大人。
「危ないから」と遊具が撤去されていく公園。
ショッピングセンター内の有料の遊び場でルールに従って遊ぶ子どもたち。

子どもには、できるだけのびのびと過ごしてほしいけれど、周りの迷惑にならないか気になってしまう。子どもと一緒に遊びたいけれど、どうすればいいのかわからず、ルールの多い整えられた遊び場にばかり足を運んでしまう…子どもに関わる人々の多くが、そんな閉塞感や窮屈な想いを抱えている現代社会。

乾善彦さんも、かつて、自分の子どもを自由に遊ばせられる環境がないというフラストレーションを抱えていました。しかし今は、そんな自分ごとの想いを原動力として、親子のための遊びの学校「原っぱ大学」(本家の活動拠点は神奈川県逗子市)の新キャンパスを自分の地元・千葉県柏市に立ち上げ、ショチョー(所長)を務めています。

そんな乾さんに、これまでの歩みや活動の原点となる想い、これからの挑戦についてお話を聞きました。最後には、次なる「原っぱ大学」を立ち上げたい人へのメッセージも。未来の「ショチョー」はあなたかもしれません!

乾善彦(いぬい・よしひこ)
一児の父。ITベンチャーに携わるフリーランスであり、「原っぱ大学 柏かわせみキャンパス」ショチョー。子どもと思いっきり遊べる場をつくるために、親子の遊び場づくりへ。「かまへん、もっとやったらえーやん」を合言葉に、フィールドを子どもと一緒になって駆け回る。

今年5月開校!原っぱ大学 柏かわせみキャンパス

「原っぱ大学」は2014年、塚越暁さんが逗子をフィールドに始めた“親子のための遊びの学校”。以前、greenz.jpでも塚越さんのインタビューを紹介させていただきました。

“学校”といっても、原っぱ大学には正解も模範解答もありません。

子どもも大人も一年を通じ、思うがままにさまざまな“遊び”に取り組みます。水道もガスも電気も通っていない里山で泥だらけになって転げ回ったり、木を削って自分たちでつくった道具で餅つきをしたり、焚き火で焼き芋をしながらのんびりしたり。

集まった人々が、その場にあるもので、やりたいことをやりたいようにやる。そんなシンプルで、でも滅多にできない“遊び”に全力で取り組めるのが、原っぱ大学なのです。

乾さんが立ち上げた「原っぱ大学 柏かわせみキャンパス」は、そんな原っぱ大学初の暖簾分け。柏市でまちづくりに取り組む合同会社 EDGE HAUSが運営するBBQフィールドKingfisher Gardenを利用して、今年5月、始まったばかりの新しいキャンパスです。

バーベキューフィールドにある小高い丘からの眺め。周囲を山や畑に囲まれていて、緑が気持ちいい

「原っぱ大学 柏かわせみキャンパス」は、逗子の「原っぱ大学」とは、スタッフもプログラムも異なります。共通しているのは、子どもも大人も全力で遊べる自由度の高い「場」を提供しているということ。遊園地や公共施設のように運営側が整備してしまうのではなく、参加者が場づくりにまで参加できる余白が残されています。

Kingfisher Gardenの一角にある原っぱ大学 柏かわせみキャンパスの遊び場。子どもが広々と走り回れそうな草地。奥に見えるのは、大人でも屋根にのぼれてしまうほど頑丈な手作りの小屋

この穴では、全身浸かって泥遊び!他の子がダンボールで家をつくったりしている横で、ひたすらこの穴の中で泥遊びに専念していた女の子もいたとか

フィールドにある池。水鉄砲も使って、びしょ濡れになって遊びます!

柏かわせみキャンパス立ち上げまでには、乾さんと、もともと原っぱ大学の参加者であった中井祥子さん、運営母体であるHARAPPA株式会社(代表: 塚越暁さん)のメンバーで「原っぱ大学をどのように柏でつくりあげていくか?」 を何度も意見交換したそう。

そしてついに、今年5月、 0〜4歳の子どもとその家族を対象とした1年間のプログラム「平日リトルコース」が柏でスタートしました。現在は13組の親子が参加しています。開校前の1月〜4月には体験会が開催されましたが、すでにフィールドを活かしたさまざまな遊びが始まっているとのことです。たとえば、子どもの「やりたい!」という一言から、山の斜面を転げ落ちてみたり、大人があこがれだったバウムクーヘンを焼いてみたり。

“ローリングくらくらダッシュ”。転げ落ちてアタマがくらくらのまま、向かいの丘にダッシュで駆け上がり速さを競うんだそう。大人も子どもも、一緒になってくらっくら!

それらの中には、乾さんを含め、スタッフの方でさえ未経験のものも多く、遊びの場を仕立てすぎないからこそ、失敗もたくさんあります。バウムクーヘンも2回失敗し、たまたまつくったことのあった参加者の助けを得て、3回目にやっと成功したそう。でも、そんな隙間こそが、子どもも大人も自由で主体的になれる場を育んでいるのでしょう。

リスクも承知の上で

原っぱ大学の遊び場の大きな魅力は、参加者が自由にできる余地が大きいところ。でも、自由であるがために、当然、怪我をするリスクも伴います。運営者にとってはとてもシビアな問題のように思いますが、乾さんはどう考えているのでしょうか。

リスクには、高いところからジャンプすると足をくじいてしまうという“認識しやすい対応可能なリスク”と、降りた先に釘が転がっていて足に刺さるという“認識しにくい危険なリスク”があります。この認識しづらいリスクがないかのチェックや、各アクティビティで安全配慮すべきポイントは、スタッフで事前に共有しています。また、気づいた点を事後にもスタッフで共有し、次回に活かすようにしています。

ただ、もともと原っぱ大学は、遊びに伴う危険も「自分たちの責任で」というのを大事にしています。遊びの一部である「安全」や「できること/できないことの判断」を参加者から切り離しちゃうのは、原っぱ大学のモットーに反する。なので、参加者と共に“安全な遊び方”を考えることに向き合うようにしています。

最近は、怪我を恐れて公園の遊具が撤去されるように、あらゆる危険をあらかじめ除去しようとする傾向が強いように感じます。しかし、原っぱ大学は、そうした世間とは少し違う方向に舵をとっているようです。

“自然”って言うと、優しいとか、エコロジーとか、プラスのことをイメージすると思うんですけど、本当は、全然そんなことはないですよね。3.11で、自然ほど恐ろしいものはないということを実感した人も多いと思います。

今の時代は、いい面ばかりがもてはやされて、不都合な面が隠されているように感じます。不必要にリスクを取り除くのは、逆に生きる力を弱めちゃっているのかなって。

だから僕らは、ある程度年齢に見合ったリスクは受け入れて、取り除かないようにしています。

原っぱ大学で遊びに使うのは普通のおもちゃではなく、道具。ノコギリ、トンカチ、指絵の具、消防ホースなど。小さい子にノコギリなどは危ないようにも感じますが、道具を正しく使うのもひとつの学び

すべての危険を遠ざけてしまうと、子どもは、自分で危険を避ける能力も、何が危険か判断する能力も養えなくなってしまいます。原っぱ大学では、スタッフと参加者がお互いの共通理解のもと、全員で子どもを見守ることで、自由に遊べる場を目指しているようです。

多くのお父さんお母さんたちは、「自由にやってもいいよ」って子どもに言ってあげたいけれど、周りの目を気にして、「ダメ」って言わざるをえないというフラストレーションを抱えているのではないかと思います。

そういうフラストレーションも、原っぱに来れば、発散できる。どろんこになってもいいし、びしょぬれになってもいい。焚き火で火遊びをなんぼでもしていい。

確かに今の時代、原っぱ大学ほど子どもも大人も肩の力を抜いて自由にできる場は、少ないのかもしれません。

この間の体験会で、お母さんに「子どもに好きな事をやらせてあげられると、私たちの心が広くなるよね」って言ってもらって。

原っぱは、子どもに自由な遊び場を提供しています。でもそれ以上に、親のフラストレーションをいかに解消してあげるか、和らげてあげるかというのを大切にしたいと思っています。

原っぱ大学は、子どもの遊び場である以上に、お母さんやお父さんの憩い場でもあるようです。

そうやって子どもが好き勝手に遊んでいるのを目のあたりにすることで、今までやっちゃいけないって思っていたことは、別に大したことないんやって気づいてもらう。それで、日々の子どもとの遊びや生活がもっと自由になっていけばいいなと思っています。

「カナヅチを使いたがる子どもの好奇心こそ大切にしたい」と、乾さん

親子で参加するからこそ意義がある原っぱ大学。自由な遊びの向こうには、親たちが子どもを育てるなかで抱えるモヤモヤを解決する糸口が見えてくるのかもしれません。

ではなぜ、乾さんはこのような遊び場づくりに取り組むようになったのでしょうか。ここからは、その背景にある乾さん自身の原体験について、お話を聞いていきましょう。

自然の中で自由気ままに遊んだ子ども時代

奈良県出身の乾さんは、子どもの頃、近所の自然の中で毎日駆け回っていたと話します。

ゲームとか何も持っていなかったので、外で遊ぶしかなかったんですよ。

雑木林に探検に行って暗くなるまで遊んだり、拾ってきた棒にビニールテープを巻き付けて、火をつけて、黒煙の上がる松明(たいまつ)をつくったり。塩素系洗剤とアルカリ系洗剤を混ぜると有毒ガスが出るのをニュースで知って、水鉄砲に二つの洗剤を混ぜて蜂の巣を退治したり…笑

いわゆる“危険”のさらに上を行くような遊びを毎日のようにしていた子ども時代のお話を、乾さんは、まるで当時に戻ったかのようないきいきとした表情で語ります。

大学院を卒業後、IT関係の仕事に就き、責任のあるポジションまで昇進しましたが、「会社の枠を超えて、なにか新しいことにチャレンジしたい」という思いを抱くようになったそう。そんな頃、参加したのが流山市の市民団体が主催する「まちづくり人養成塾」。ここでの学びをもとに、乾さんは遊び場をつくる活動をはじめました。その根っこになっていたのは、やはり子ども時代の体験でした。

僕が住んでいたのは、特に山深いところではなく、普通の盆地で田んぼがあるようなところでした。でも今の環境的に、息子にはそういった遊びをさせてあげられていないという思いがありました。

そうして会社で働きながら立ち上げたのが、「ヒミツキチ」というプロジェクト。始まりは、駅前にある大きな公園で、ノコギリとロープのみを子どもたちに提供し、竹を切り出し、好きなように遊べる場をつくったことだったそう。

ほとんどの子どもたちにとって、ノコギリを使う事自体が初めて。何をつくるでもなく、ひたすら竹を切ることを楽しんでいて、竹を切るための列ができるほどでした。笑

そのうち子どもたちは、切った竹をバズーカやコップなど、思い思いのものに見立てて遊び始めて。「子どもたちにとっての遊びってこんなんでいいんや」、「きっかけを与えて好きにさせればどんどん広がっていくんや」って実感した瞬間でした。

さらに、2回、3回とヒミツキチを開催していくうちに、駆け回る子どもたちの横で手持ち無沙汰な様子の大人たちが乾さんの目に止まりました。そこで大人にロープを手渡し、公園の木でブランコをつくってくださいと無茶振りしたところ、試行錯誤しながら、楽しそうに木登りを始めたそう。

大人も子どもも楽しめるのがいい!と実感した瞬間でした。これって新しい遊びの形やし、ビジネスになるんやないかとのめり込んでいきました。それで今の仕事を続けるより面白い!という予感だけを頼りに、会社を辞めちゃったんすよね。

水の入ったバケツにすっぽり入って、子ども顔負けの自然な笑顔を見せる中井祥子さん(「原っぱ大学 柏かわせみキャンパス」もう一人の立ち上げ人)。子ども以上に楽しそう

自分ごとから始めた活動が少しずつ形になっていた頃、乾さんは、Facebookで原っぱ大学に関する投稿をたまたま目にしました。”自分と同じような活動をしている人がいる!”と思った乾さんは、塚越さんに直接メッセージを送ったそう。

その後、塚越さんが講師をつとめるグリーンズの学校「マイプロジェクト&じぶんごとクラス」へ参加したことから、乾さんの人生は急展開。「green drinks柏」で、現在キャンパスとして利用しているフィールドを運営するEDGE HOUSEと出会い、同時期に、塚越さんから原っぱ大学新キャンパスの立ち上げに誘われて…。さまざまな縁がつながって、柏かわせみキャンパスの立ち上げにたどり着いたと言います。

さらにgreenz.jpの記事が、気持ちの面で乾さんの活動を後押ししていたようです。

僕はわりと優等生で浪人もせず国立の大学に行って、安定しつつも伸び盛りの会社に就職して。世の中のメインストリームしか知らなかったわけですよ。でも、会社を辞めてgreenz.jpを見ていたら、世の中変わった人がいっぱいおるんやな、メインストリームから飛び出すことは特別なことじゃないんやな、って思えた。

何も保障されたわけではないけど、安心したというか、なんかやっていけそうっていう元気はもらえました。なんとかなるんやって(笑)

乾さんの狼煙は…
自分のまちで「原っぱ大学」を立ち上げたい人、大募集!

自分ごとから活動を始め、原っぱ大学 柏かわせみキャンパスの立ち上げに至った乾さん。今後、新たに「週末クラス」を立ち上げようと里山も借りる予定で、活動の拡大に力を入れています。

まだ柏は始まったばかりなので手探りですが、どんなカタチで広げていけるのか、今後考えていきたいと思っています。原っぱ大学のような遊び場は、都市近郊はもちろん、地方でも求められていると感じているので、他の地域にも広げていきたいです。

原っぱ大学を広めていくために何より必要なのが、人と場所。熱のある人と余白たっぷりのフィールドにどう巡り合うかというのが課題だといいます。乾さんのように原っぱ大学の新キャンパスを個人で立ち上げるのももちろんありですが、地域でビジネスをしている人たちが、もう一つの事業として、原っぱ大学を地元で広げていくという形もありうるのではないかと考えているそう。では、どんな人が求められているのでしょうか?

原っぱ大学には、現場スタッフやリーダーになる人たちの悪ふざけと悪乗り、遊び心が不可欠です。自分たちが心底「おもろい!」と思ってやるかどうか。変に迎合したり、時流に乗ったりせず、「それ、おもろいやん!と思ってくれる人が、参加してくれればいい」っていう姿勢を崩さないことが大事です。

ショチョーとして、誰よりも本気で遊ぶ乾さん。率先して、顔にペンキを塗られる役を買ってでます

子どもは、どこでも遊ぶ力がある。でも残念ながら、それを狭めてしまっているのは私たち大人かもしれません。原っぱ大学は、親子で遊び場に参加して楽しんでもらうことで、大人が普段何気なく課している制約が、生活の中でも、社会の中でも一つずつ外れ、子どもも大人も、もう少し自由に、そして主体的に生きていけるよう願っています。

それともうひとつ。僕みたいに遊びを仕事にしてるって、めちゃくちゃに思えますが、今はいろんなものが知らず知らずのうちに分断されていると思うんです。仕事と遊び、仕事と生活とか。心と体とか。そういう分断されているものを、原っぱ大学では遊びを軸にしてつなげていく。そんなチャレンジを、一緒に楽しんでほしいですね

「自分の活動が結果的に社会課題の解決に結びついたら、それはいいことだけれど、なにより自分自身がワクワクする事が大事。苦しいのも結果的に楽しめるぐらいでないと」と語る乾さん。自分がいちばん面白がれる。自分ごとの活動だからこそ、確実に根をはっているのかもしれません

「子どもよりも全力で遊べる自信がある!」
「面白いこと大好き!」
「いろんなことの垣根と制約を取り払いたい!」

という方。ぜひ次なる「原っぱ」づくりに立候補してみませんか?

【乾さんの連絡先】
Facebookのメッセージまで:https://www.facebook.com/yinui0731

あなたもgreenz people コミュニティに参加しませんか?

そんな乾さんも参加している、ほしい未来のつくり手が集まるグリーンズのコミュニティ「greenz people」。月々1,000円のご寄付で参加でき、あなたのほしい未来をつくる活動をグリーンズがサポートします。ご参加お待ちしています!

詳細はこちら > https://people.greenz.jp/



from greenz.jp http://greenz.jp/2017/06/27/people_inuiyoshihiko/
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